
1. はじめに
日本の公的年金制度は、1985年の年金制度改正以来、国民年金(基礎年金)と厚生年金の二階建て構造を基本としています。しかし、少子高齢化や社会経済状況の変化に伴い、制度の持続可能性が常に課題となっています。2024年の財政検証の結果を踏まえ、次期年金制度改革の方向性について議論が進められていますが、現時点では改正が決定されたわけではなく、今後の検討次第で内容が変わる可能性もあります。本記事では、その最新の動向について整理し、今後の展望を解説します。
2. 2024年財政検証のポイント
2024年7月に発表された財政検証では、今後の年金制度の持続可能性を評価するため、経済成長率や人口動態を考慮したオプション試算が行われました。主なポイントは以下のとおりです。
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所得代替率50%の維持:一部の厳しい経済前提を除き、現行の年金制度でも所得代替率50%を維持できることが確認されました。
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基礎年金の給付水準の低下:マクロ経済スライドの影響で、特に基礎年金部分の給付水準が低下する可能性が示唆されました。
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被用者保険の適用拡大の効果:適用拡大が進めば進むほど、年金財政の安定や給付水準の向上につながることが確認されました。
3. 次期年金制度改革の主要課題
2024年の財政検証を踏まえ、次期年金制度改革では以下の点が重点的に議論されています。ただし、これらの項目は現時点では検討段階にあり、最終的な制度改正が決定されたわけではありません。
1. 被用者保険の適用拡大
現在、パートタイム労働者や非正規労働者の増加に伴い、被用者保険の適用範囲を拡大することが求められています。具体的には以下の施策が検討されています。
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企業規模要件の撤廃:現在、50人超の企業に限定されている適用範囲を、全企業に拡大。
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賃金要件の見直し:現行の「月額賃金8.8万円以上」という要件を撤廃し、より多くの労働者を適用対象とする。
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複数事業所での労働時間合算の検討:複数の職場で働く人々の労働時間を合算して被用者保険の適用対象とする可能性。
2. 「年収の壁」と第3号被保険者制度の見直し
短時間労働者の社会保険加入を促進するため、「年収の壁」問題の解消が検討されています。
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「106万円の壁」対策:企業が従業員の社会保険料負担を軽減できる特例措置を導入。
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「130万円の壁」問題への対応:第3号被保険者が適用される範囲を縮小し、より多くの人が被用者保険に加入できる仕組みを整備。
3. 在職老齢年金制度の見直し
60歳以上の就業者が増加する中で、在職老齢年金制度の見直しが求められています。現行の制度では、一定の収入を超えると年金が減額されるため、高齢者の就業意欲を削ぐ要因となっています。
4. 基礎年金の拠出期間延長
現在40年の基礎年金拠出期間を45年に延長する案が議論されています。これにより、将来の年金財政の安定化を図ることが目的とされています。
5. 遺族厚生年金の見直し
従来の性別による固定的な役割分担を反映した制度を見直し、男女問わず公平な給付が行われるよう調整。
4. まとめと今後の展望
今回の年金制度改革の議論では、特に「働き方の多様化」に対応した制度設計が重要視されています。被用者保険の適用拡大や「年収の壁」問題の解消が進めば、より多くの人が安定した年金を受給できる仕組みが整備されることになります。
ただし、これらの改革案はあくまで検討段階であり、最終的な決定には今後の議論を踏まえる必要があります。今後、2025年以降の具体的な法改正の動向を注視しつつ、事業主や労働者にとって最適な選択肢を検討することが求められます。引き続き、年金制度改革の最新情報を追っていきましょう。