
2024年5月、首都高速5号線で発生した痛ましい交通事故。
渋滞中の車列に突っ込んだトラックの衝突により、乗用車に乗っていた3名が命を落としました。
運転していたのは29歳のトラック運転手・降籏紗京被告。事故後、過失運転致死傷の罪で起訴されましたが、事故の背景には労務管理上の重大な問題が隠されていました。
2025年3月19日、神奈川県の厚木労働基準監督署は、降籏被告に違法な休日労働をさせていたとして、勤務先の運送会社「マルハリ」とその社長を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。
トラック運転手に違法な休日労働か 勤務していた会社と社長を書類送検 首都高3人死亡事故
36(サブロク)協定とは?
トラック運転手だけでなく、すべての働く人・雇う人にとって無関係ではないのが「36協定」です。
● 労働基準法に基づくルール
労働基準法では、
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原則:1日8時間、週40時間以内の労働
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残業や休日出勤をさせるには、36条に基づく労使協定(36協定)を締結し、労基署に届け出ることが必要です。
● 2019年以降、罰則付きの「上限規制」が導入
時間外労働の上限は以下のとおり定められています:
時間外労働の上限 | 内容 |
原則 | 月45時間、年360時間まで |
特別条項付きでも | 年720時間以内、複数月平均80時間以内、1か月100時間未満(※休日労働含む) |
これらを超えて働かせることは原則として違法です。
労働時間と健康被害の関係性
労働時間が長くなるほど、脳・心臓疾患との関連性が高まることが厚労省の通達でも明示されています。
🔹 月45時間を超える残業
🔹 月100時間超 or 複数月平均80時間超の残業これらは、過労死や健康障害と業務の関連性が「強い」と判断されます。
今回の運送会社も、36協定で定めた休日労働の上限を守らず、法令を超えた勤務を運転手に課していたことが発覚しました。
企業が負う「安全配慮義務」と社長個人の責任
36協定を結んでいても、企業は安全配慮義務を免れるわけではありません。
「36協定を出しているから大丈夫」ではなく、実際の労働状況が従業員の健康や安全に配慮されたものでなければ、使用者責任が問われるのです。
本件でも、労基法違反にとどまらず、警視庁が社長に対して業務上過失致死傷の疑いで捜査を進めているとの報道があります。
企業が意識すべきこと
「人が亡くなってからでは遅い」
労務管理の甘さが、企業だけでなく、働く人の命や家族の人生まで奪ってしまうことがあります。
36協定の締結・運用は、単なる事務手続きではありません。
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形だけでなく「実態」が伴っているか
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管理者・経営者自身がルールの本質を理解しているか
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働き方を「現場任せ」にしていないか
日常業務に追われて後回しにされがちな労務管理だからこそ、定期的な見直しと専門家のサポートが必要です。
最後に:事故を他人事にしないために
今回の事件は、たまたま運転中に発生したものですが、働く人が疲弊した状態であれば、どんな職場でも事故やミスのリスクは高まります。
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社員の働き方、見直せていますか?
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36協定は、きちんと実態に即した内容ですか?
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健康を守る制度、整えていますか?
一度、立ち止まって考えてみませんか。
※参考資料:
・厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」
・日本テレビ「首都高3人死亡事故 違法な休日労働か、勤務先と社長を書類送検」(2025年3月19日報道)
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
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