
はじめに
「同一企業内であれば、正社員とパート・契約社員の間で不合理な待遇差があってはいけない」──そんな考え方のもと、2020年4月から順次施行された「パートタイム・有期雇用労働法」。制度導入から3年以上が経過し、企業の現場ではどのように運用され、労働者はどう感じているのでしょうか?
今回は、2025年3月に公表された労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査結果と、厚生労働省の制度解説資料をもとに、企業が押さえておきたいポイントをわかりやすくまとめました。
参考:【解説動画】パートタイム・有期雇用労働法について学ぼう!
制度の背景と対象者をおさらい
パートタイム・有期雇用労働法は、いわゆる“働き方改革”の一環として導入されました。
この法律の対象となるのは、「短時間勤務のパートタイム労働者」や「契約期間のある有期雇用労働者」。名称にかかわらず、正社員(無期雇用フルタイム労働者)と比べて、労働時間や契約形態に差がある労働者が対象になります。
この法律の目的は、「公正な待遇の実現」。つまり、雇用形態に関係なく、働きや貢献に見合った評価と待遇がなされる環境を整えることです。
▶ 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法のあらまし」:https://www.mhlw.go.jp/content/001116249.pdf
実態とのギャップ:知られていない制度、説明されない待遇差
JILPTの調査によると、「制度を詳しく知っている」労働者はわずか12.7%。「大まかには知っている」を含めても34.2%にとどまっています。
また、自身の待遇差について「説明を受けた」と答えた人は29.1%しかおらず、多くの非正規労働者が“なぜこの待遇なのか”を知らされていないのが実態です。
これは、制度上の義務とも大きくかけ離れています。第6条・第14条では、雇入れ時に「昇給の有無」「賞与の有無」「退職金の有無」「相談窓口」の明示が義務づけられ、待遇差の理由も説明する必要があります。
▶ JILPT『同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査(調査シリーズNo.252)』:https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/documents/0252.pdf
不合理な待遇差の禁止と判断ポイント
第8条では「不合理な待遇差の禁止」、第9条では「差別的取扱いの禁止」が明記されています。
判断のポイントは以下の2点:
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職務の内容(業務内容と責任の程度)
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職務の内容・配置の変更範囲(異動・転勤の可能性など)
たとえば、正社員とパートが同じ業務をしていて、転勤もなく責任の程度も変わらない場合、その2人の賞与や教育訓練に差があると、不合理とみなされる可能性があります。
形式的な「雇用形態」ではなく、実際の「働き方」に着目する必要があるということです。
労働者の「納得」を得るには:説明義務の効果
調査では、待遇差の説明を受けた労働者の75.7%が「納得した」と回答しています。一方、説明がなかった場合の納得率は約30%程度。
これは、待遇差そのものよりも、「きちんと説明してもらえたかどうか」が、納得感や働く意欲に直結していることを示しています。
制度を活かす3つのポイント
1.説明責任を果たす=信頼構築
昇給・賞与・退職金・相談窓口の4項目は、必ず書面で明示が必要です(メールやFAXでもOK)。特に契約更新時にも忘れず対応を。
2.「比較・説明」できる待遇差かを意識する
待遇差がある場合でも、「職務内容が違うから」といった一言で済ませるのではなく、責任の程度や異動の可能性まで含めて検討し、「合理性」を説明できるようにしておきましょう。
▶ 点検ツール(千葉労働局):https://jsite.mhlw.go.jp/chiba-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/koyou_kintou/checktool.html
千葉労働局の点検ツールなどを使って、自社の制度を見直すのもおすすめです。
3.就業規則の見直し・共有
パート・有期雇用労働者に関する就業規則を新たに定める場合は、本人たちの代表者の意見聴取も必要です。また、紙でも電子でも“誰でも見られる状態”にしておくことが大切です。
おわりに:制度は「整備」から「運用」へ
法律が整っていても、現場での丁寧な対応がなければ、「働きがい」や「納得感」は得られません。
特に中小企業では、制度の理解や運用に手が回らないこともあるかと思いますが、社労士などの専門家に相談しながら、自社に合った形で制度を整えていくことが大切です。
「制度の説明って、どうしたらいいの?」「うちの待遇差、大丈夫?」というお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。